株式会社 奥山建設

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住まいのコラム

Vol.005耐震断熱改修の可能性 愛着や思い出を活かす計画

平成25年春、埼玉県吉見町にある実家の耐震断熱改修を行っています。築35年、1階38坪2階12坪 延床50坪、あと数年で定年を迎える両親と82歳の祖父の暮らす家です。

2間続きの和室

実家には広い玄関から続く8畳と6畳の続き間がありました。冠婚葬祭を自宅で行った当時のお馴染みな間取りです。和室の続き間と縁側、廊下は襖で仕切られています。この襖を外すと20〜25畳の大空間となります。これは多くの人が集まる為の工夫ですから、必要に応じて間仕切ることの出来る襖が良かったのです。

 

しかし壁が無い事で揺れ易く、熱が逃げ易いといった弱点にもなっています。大きな地震や経年劣化により家が歪み、暖房してもなかなか暖まらないのです。地震や台風に強い住まいなら安心して暮らせます。断熱性能の高い住まいなら冬は暖かく夏は涼しく快適に暮らせます。間取りの変更に加えて、耐震性や断熱性を高める必要がありました。

写真:解体風景。床柱や落とし掛などは再利用する為、養生します。

改善点・要望を整理する

・使用頻度の低い2間続きの和室が日当たりの良い場所を占領し、長い時間を過ごす居室は暗い北側にある。

・トイレ、洗面室、風呂は狭くて寒い暗い、老朽化している。

・床は痛み傾斜がある。建具が重い。

・冷暖房の効きが悪い。隙間風がある。

・2階の音が響く。

・構造的な不安と歪みによる耐力低減。

・コンセントが少なくタコ足配線が多い。配線がゴチャゴチャしている。

・収納が足りない。持ち物が多い。

・住みながらのリフォームの為、工事範囲を必要以上に広げない工夫が必要。

まず、両親と祖父の事を思い、冬の温度差を小さくしたいと考えました。お風呂やトイレ、廊下の温度が下がらないよう断熱材を施工することで暖房した部屋との温度差を抑え、体への負担を軽くします。(※ヒートショック対策)

洗面所や廊下・トイレが寒くなければ、冬場の入浴などはグンと楽になりそうです。熱を逃がさない為には、天井・壁・床をぐるりと断熱材で覆う必要があります。また、1階天井の断熱施工は2階との防音効果も期待できます。

※ヒートショックは、急激な温度変化が体に及ぼす影響のことです。これが原因で亡くなる方は交通事故死亡者より多く、年間一万人を超えると言われています。

 

写真:柱の傾きやねじれ、床の傾斜を調査することから木工事がスタート。

最も熱の逃げやすい窓は、樹脂製のペアガラスサッシを採用しました。日当たりの良い南側の部屋には太陽熱を取込み易いタイプ、その他の窓には熱を逃がしにくいサッシを選定します。これらは、パッシブデザインを活用しています。断熱性能を高める程、小さなエネルギーでの温度調節が可能になります。化石資源の枯渇による電気やガスの価格高騰を予想すると、断熱性能向上には大きなメリットがあると考えられます。お財布に優しい事、これも快適な暮らしに欠かせない点です。

 

写真:壁と天井へ断熱材を施工した後。

次に生活空間の提案です。南側に祖父の寝室を移動します。縁側と一体化させ洋間とすることで 畳の広々とした空間が確保できます。ベットで寝起きする為、畳からフローリングへ変更しました。日当たりの良い窓辺にはリクライニングチェアを置きます。祖父はここで日向ぼっこをしながら煙草を吸うのです。廊下には将来手すりを取り付けられるよう準備をしておきました。また、トイレと洗面室にはゆとりのスペースを設け、介護が必要となった場合を見据えています。

 

耐震計画は耐震診断法を参照し、また1・2階の耐力壁位置を揃えバランスを整えます。基礎の補強は最小限にとどめ、壁量を多めに設計することで必要な耐力を満たしました。建築基準法で定められる耐震性能同等を目標にしました。現場では、既存の骨組みを再利用する為、丁寧に解体する事と金物等を使って適した補強を行う事が重要です。より効果的な補強方法を検討する必要があり、職人の理解と協力が不可欠です。

 

写真:金物を使って補強します。

リフォームか建替えか

工事中の生活や、建築計画、施工管理、どれをとっても新しく建てた方が負担が少ないものです。リフォーム工事は、住まい手にとっても大きな負担がありモチベーションやエネルギーが必要となります。例えば約2ヶ月間工事中の家に暮らす生活をイメージして下さい。工事内容によっては仮住まいをする方が良い場合もあります。

 

住まいに対する愛着や家族との思い出が大規模リフォームを決意させるのだと思います。日焼けした木肌、子ども達の悪戯で貼られたシールの跡、雨や飲み物をこぼした水の染み、歪んだ骨組み。経年変化はそれぞれ異なり、その家らしさをかもし出してゆきます。新品が持つことの出来ない味わいを楽しむ事、愛着を持ち丁寧に住まう事、それはものを大切にする精神であり、誇りを持って次世代へ継承すべき文化だと考えます。新築を超えるリフォーム、その可能性は愛着や思い出を活かした計画にあります。

 

弊社を信頼して下さった皆様に笑顔で暮らして頂けるよう、知識を深めるとともに現場を支える職方との一層強い連携を整えて参ります。住宅のプロとして新築もリフォームも得意とする工務店を目指しています。

 

(レポート執筆 小林大介)

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