vol.012熊本地震を振り返る ~つくり手として出来ること~
つくり手として出来ること
大きな地震が発生すると、建物が壊れ道をふさぎ、水道・電気・ガスが止まり、公共の交通機関も動かなくなります。住まいが凶器になってしまうこともあります。
私たちは、震災時には住まいが危険から人を守るシェルターとなり、その後も快適な暮らしの場としての役割を担い続けて欲しいと願っています。
いつか起こるかもしれない大地震に備えるため、現在奥山建設では全棟「耐震等級3」を満たすよう設計し、強い揺れに耐えられる骨組みを造っています。
2016年4月の出来事 熊本県益城町
熊本地震では、震度6から震度7を観測する地震が何度も発生しました。
2011年に起きた東日本大震災では、埼玉県でも大きな揺れを感じましたが、震度5弱~5強でした。想像してみてください。あの時の揺れを上回る地震が2日間に7回起きたのです。
大きな被害が発生した「熊本県益城町」の上空写真を「グーグルマップ」を使って見ることができます。青く見える屋根は、地震で損傷した建物をブルーシートで応急処置しているものです。
耐震基準は3段階
「グーグルマップ」の「ストリートビュー」機能を使うと、より詳細な被害状況を知ることが出来ます。
写真は、震災後の様子です。築年数の浅い建物ですが1階がつぶれ道路側へ倒れています。
専門家による調査から、1階と2階の耐力壁バランスが悪かったことや、床の強度が低かったことが分かったそうです。
皆様のお住まいの安全を守る耐震基準は、3段階あります。
その内、最低基準となっている「建築基準法(耐震等級1)」は、こんな風に解釈されています。
「数百年に一度発生する地震(東京では震度6強~7程度)の地震力に対して、倒壊・崩壊せず・・・。」
震度6強から震度7程度の揺れが1回だけ起こった時、建物がゆがんだり、壁にひびが入ったりしても良いが、人命が損なわれるような壊れ方をしないようにする。という意味合いです。
熊本地震での被害状況と照らし合わせると「不充分な基準」だと不安に思います。「建築基準法を満たせば安全」という考え方に、疑問を持っていただけたら幸いです。
建築基準法で建てられた住宅も倒壊
「熊本地震における木造住宅の建築時期別の損傷比率」を見ると、2000年以降に建てられた築浅の木造住宅の中でも、残念ながら危険な住宅があったということが分かります。
1995年に発生した阪神・淡路大震災では、当時の耐震基準を満たした建物を含む多くの木造住宅が被害にあいました。その反省から現行の建築基準法(2000年基準)が定められました。
熊本地震では、2000年以前の建物に対して、2000年以降の建物の損傷が軽くなっていることから、一定の効果(性能の向上)があったと言えます。しかしながら、全壊12棟、倒壊7棟という被害が起きてしまったことは重く受け止めなければなりません。
こちらの平図面は、2006年に完成し、熊本地震で倒壊した木造住宅です。
倒壊の要因を考えてみてください。(赤色太線で示しているのは2階の形です。)ほぼ長方形の外形で窓が多いわけでもなく、極端に大きな部屋もありません。一見すると少しゆったりとした間取りの一般的な住まいです。
住まわれていた方は、地震で倒壊するとは思いもされなかったことでしょう。
大きな地震後も、壁や内装を補修すれば「住み続けられる家」をなぜ建築基準法で満たずべき耐震性の基準としないのか、疑問に思われませんか。
目指すべきは、倒壊0棟・全壊0棟であった「耐震等級3」同等以上の耐震性能と考えます。
地震に関する必要な耐力壁の量が、どれほど違うかみてみましょう。
必要な壁量(cm)は次の式で求められます。
【建築基準法の床面積(m2)×係数(cm/m2)】
係数を比較すると次のことがわかります。
■2階と比べて1階はたくさん耐力壁が必要!
■床面積当たりに必要となる耐力壁の量は、建築基準法が最も少なく、耐震等級3の「約半分」。
耐震等級2は、長期優良住宅に求められる性能です。建築基準法の1.25倍の耐震性能があります。
奥山建設の住宅に求められる性能は、耐震等級3。建築基準法の1.5倍の耐震性能です。
私達は、長期優良住宅を超える安全性を目標にしています。
耐震性能を高めるために
耐震性能を高めるための項目を書き出すと地盤、基礎、柱、骨組み、床面、小屋組み、屋根、仕口、金物補強、耐力壁、建物重量、上下階の形状…等々、多岐にわたります。住まいの間取りに応じて、どの項目をどのように補強するのか見極めることが大切です。
例えば耐力壁です。床面積に対して係数を掛けると必要な量が求まります。しかしながら、この量を満たすだけでは不十分です。効果的に耐力壁を働かせる工夫があります。
まず、耐力壁は必要な量+αをバランスよく配置することで、ねじれる変形を防ぐことができます。ねじれは建物の重心と耐力壁の中心(剛心といいます)がずれる程、起こりやすくなります。道路面にほぼ壁の無い建物(古い木造の店舗をイメージしてみてください)は、ねじれるように壊れる危険性が高く、バランスの悪い一例です。
次に、2階の耐力壁の下に1階の耐力壁があるかどうかも重要です。ない場合は耐力が下がると言われているので、その分の余力を見込んだ計画とします。
耐力の大きい壁を作ると、同時に柱や梁への負荷が大きくなることを忘れてはいけません。熊本地震のような繰り返し揺らされることを想定すると、柱や梁への負担を小さくする配慮が望ましいと思います。方法は2つです。ひとつは、耐力の小さい壁をたくさん作り、力を分散させることです。もうひとつは、柱や梁のサイズを大きくするなどし、断面欠損※を小さくすることです。
耐震性を高めるための項目は多岐にわたり、それぞれが連動していて、一つを調整すると他に影響がないか確認する必要があります。また、実際に造り上げるのは職人の手ですから、良い仕上がりを安定して造り出せる施工方法かどうかも重要です。構造力学的な知識を基にし、現場での諸事情を踏まえた、総合的な判断が必要なのです。
「快適性」を支える「安全性」
快適な暮らしの場、それも永く大切にしてもらえる暮らしの場を造ることが、私たちの使命だと感じています。
前号では「心地良く生活していただける場を目指して」というテーマで、庭についてお話をさせていただきました。無垢の木を使う、そして温湿度環境にこだわるという点でもそうですが、住まいの性能として「快適性」をとても大切に考えています。
この「快適性」を支える土台となり、快適な暮らしを永く維持していくために必要なのが「安全性」だと私たちは考えています。
快適で安全な家づくりを追求し、「全棟耐震等級3」とすることが、皆様の幸せにつながることと確信しています。